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小説ぽいもの



手紙


      プロローグ

 「また雨か・・・」その突然の雨に顔をしかめる貢。買ったばかりの本を傘代わりにと頭の上にかざし、家路への足を速める。
 と、急ぐ貢の前に凄い勢いで車が迫ってくる。驚いて足を止めた貢をかすめるようにその車はカーブを切り、水を跳ね上げながら右に曲がって行く。
 跳ね上げた水をもろに被った貢がムッとして車を睨みつける。と同時に激しいブレーキ音と共に車は急停車。
 「えっ?」あせる貢。
 勢いよく開けられたドアから少し腹の出た中年男が飛び出てくる。謝ろうとする表情ではない。むしろ怒っているようだ。おおいにびびる貢。思わず拳を握りしめる。
 しかし、中年男はそんな貢に見向きもせず車を止めた先にある飲み屋にこれまた凄い勢いで飛び込んでいった。
 「なんだ?」思わず握りしめていた拳がゆるむ。ホッと息をつくと、今度は助手席のドアが静かに開き、女が降りてきた。
 雨の中、ゆっくりと貢と女の視線が交差する。・・・・・時間が止まった。雨にうたれるまま濡れていく彼女の美しさは貢の心を捉えて離さない・・・・・。
 そしてどれくらいの時が経ったであろう、数分か、それとも数秒だったのか、さっきの中年男が店から出て来たのを合図に、貢の止まっていた時間が動き出した。
 中年男は雨に濡れた彼女を突き飛ばし、店から一緒に出て来た別の女を車に乗せながら、続いて出て来た中年男に負けず劣らず太ったおばちゃんに声を掛ける。
 「こいつしっかり教育しといてよママ」と、突き飛ばした彼女を顎でしゃくる。
 「だいじょうぶだよ、エリはちゃんとしてっから。な、エリ」と、ママと呼ばれた太ったおばちゃんは車に乗りこんだ女の方に目をやる。
 その後もなんやかやとエリなる女に言葉を浴びせかけ、エリは面倒くさそうに二度三度と頷き、中年男に早く車を出すように促す。
 中年男はもっと文句を言いたげだったが、エリに促されおとなしく車に乗り込んだ。
 ママはにこにこしながら走り出した車を見送ると、その振り向きざま平手で彼女の頭を激しくはじき飛ばした。
 「アホたれっ!」一キロ先でも聞こえそうな声で怒鳴ると、ママさんは大股で店の中に戻っていった。
 彼女は俯いたまましばらく動かなかったが、その後店から出て来た化粧の濃い若い女に手を引かれ店の中に入っていった。
 「ナオ」彼女はそう呼ばれていた。

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     松籟(しょうらい) 貢(みつぐ)十八才

 「お疲れ様!」出先から戻ったこの物語の主人公、松籟 貢 十八才を元気な声が迎える。
 元気な声の主は何かと貢の世話を焼きたがるバツイチ子持ち、自称笑顔の可愛い女盛りの城島佐知子、三十一才である。
 「遅いぞ少年、もうみんな帰っちまったぞ」
 言われて事務所を見回すとほんとに誰もいない。
 「うそ〜!」
 「うそ」貢をからかう佐知子。
 「なんだそれ?」
 「むはははは〜」と奇妙な笑い声を上げる佐知子。「実はさっき連絡がありまして、ちょっとしたハップニングがあって遅くなるってさ」
 「ハプニング? 俺はそこ行かなくていいの?」
 「いいんじゃない、何も言われてないし、もう私も帰るし。」
 「そう・・・、でも俺だけ早く帰るのは気が引けるな。」しばし考える貢に、
 「待ってたって残業代はでねぇぞ少年。」と佐知子。
 『それもそうだな』と、貢は帰ることにした。
 貢が帰り支度を始めると「あっ そうだ!」と佐知子が声を上げる。
 「今日なんか予定ある?」
 「なんの?」佐知子の問いに聞き返す貢。
 「夜の」
 「誰の?」
 「少年の」
 「俺の?」
 「うん」と頷く佐知子。
 「予定って?」
 「それは私が訊いているのだ。それとも何か? 予定の意味が分からないのか?」
 「それくらい知ってるよ。」
 「なら早く答えろ」
 「予定たって、帰って飯食って、それから〜・・」
 「よし、暇って事だな」と佐知子は貢の言葉を遮り「じゃ、今夜晩飯一緒に食べない?」と続ける。
 「晩飯?」
 「オウムかお前は、さっきから聞き返してばっかりだな。」
 「悪かったな。」
 「・・・まぁいいや。実は今日、春樹の誕生日なのよ。親子水入らずの誕生日会なんだけど招待してあげる。」
 「それは・・・どうも」
 「来る?」

−2−



 「行ってもいいけど・・・でも旦那さんは?」
 「誰の旦那だよ?」
 「あっ、わ 別れた旦那さん。」佐知子の少々ムッとした感じの口調に慌てる貢。でも佐知子は本気でムッとしているわけではない。
 「ふんっ!いいのいいの、あんな奴に会わせたってろくなことないし、それにほら、この前少年に遊んで貰ったときも春樹楽しそうだったじゃない?」と、今度は笑顔の佐知子。
 そう言われて、先日偶然佐知子達とスーパーで会ったことを思い出す貢。春樹のお守りを頼まれ小一時間ほど遊んでいたのだが、本当に楽しそうだった。無邪気にはしゃぐ子供の姿は貢も見ていて楽しかった。
 「いくつになるの?」
 「六歳。来年はピカピカの一年生。」と、楽しそうに「あ! うちの子可愛いからあのCMから出演依頼が来ちゃうかも。」と満面の笑顔。
 「あるわけ無い。」貢が冷たく即答。
 佐知子が睨む。
 「じょ 冗談です。来るかも知んない。」と、貢が作り笑顔。
 「よし。」と佐知子は頷き「で、来る?」
 「お邪魔させていただきます。」少し考え、冗談っぽく頭を下げながら答える貢。
 「よろしい。じゃ、七時にファミレスね。」
 「了解。」
 「あっ 誕生日だけどプレゼントなんていらないから気にしないでね。」
 「えっ?」
 「寝言で携帯ゲームが欲しいって言ってたけど気にしないでね。」
 狙いはそれか・・・。笑顔の佐知子を思いっきり睨む貢であった。


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